仕事をするときの雇用形態には、働く会社と直接雇用契約を結ぶ正社員、契約社員、パート、アルバイトなどの働き方と、人材派遣会社と雇用契約を結び派遣社員として就業する働き方があります。今回は派遣社員として働くときに知っておくべき法律や契約書のポイントを解説します。
人材派遣契約とは
人材派遣契約には、基本契約と個別契約の2つがあります。
基本契約は人材派遣会社と派遣先企業が結ぶ契約のことをいい、派遣料金や禁止事項、損害賠償、契約を解除した場合の方法などを取り決めます。基本契約は労働者派遣法で締結の義務はありませんが、万一のリスク回避の目的でほとんどの企業が行っています。
一方の個別契約は、人材派遣会社と派遣社員が結ぶ労働契約です。
労働者派遣法により、就業先での派遣期間、就業時間、業務内容など就業条件の明示が義務化されています。派遣先企業は、この個別契約の内容に従って派遣社員に業務指示を出すことになります。
契約書確認までの流れ
派遣として仕事をする際の登録から契約書締結、就業、契約更新までの流れを説明します。
(1)人材派遣会社に登録
労働者が派遣で仕事をする場合、人材派遣会社に登録することが必要です。
登録するときに、プロフィール、今までの職務経験やスキル、希望する仕事内容・条件、連絡先などの情報を人材派遣会社に提出します。
(2)仕事の紹介
登録内容の条件に合った派遣先が見つかった場合、人材派遣会社から連絡があります。
このときに自分の条件に合わない仕事を断ることも可能です。また、人材派遣会社によっては求人サイトを運営しているところもあるので、自分で求人サイトにアクセスして派遣先を探すこともできます。
この段階で勤務条件や契約期間などをしっかり確認しておきましょう。
(3)契約締結
派遣先が決まったら就業条件の内容をあらためて確認し、納得した上で人材派遣会社と個別契約を結びます。個別契約書は人材派遣会社から送付されます。
登録した人材派遣会社で初めて就業する場合は、雇用手続きを行います。主な手続きには、銀行口座・マイナンバーの登録、社会保険加入などの手続きがあります。
(4)就業開始
派遣先の指示に従って業務を行います。
人材派遣会社によっては、就業時のアドバイスや研修を受けられるところもあるので確認してみましょう。
(5)契約更新
派遣の契約期間が終了する90日から30日前までの間に人材派遣会社の担当者から「現派遣先での契約を更新するかしないか」の確認の連絡があるので希望を伝えましょう。
ただし、更新ができるのは派遣先企業が継続を申し出た場合のみです。更新がなく契約期間で派遣が終わる場合もその旨の連絡があります。
原則30日前までには、契約更新の有無が確定します。
人材派遣契約の前に注意すべきこと
人材派遣の契約をする前に次の点に注意しましょう。
雇用契約書の契約内容を確認する
派遣として仕事をする際は、人材派遣会社と雇用契約を結ぶことになります。
契約時には雇用契約書が渡されますので、下記の項目内容をよく確認し、不備や質問があればすぐに人材派遣会社に問い合わせましょう。
<おもな記載項目>
- 労働契約の期間
- 就業場所
- 業務内容
- 就業時間
- 賃金
- 所定外- 時間外および休日労働の有無
- 休憩時間、休日、年次有給休暇
- 所属する部署
- 指揮命令者
- 苦情の申出先
など。
派遣就業時に注意しておきたいポイント
派遣社員として働く際には、トラブルにならないよう以下の点について把握しておきましょう。
人材派遣契約以外の業務
例えば契約上の業務内容が経理事務であるにもかかわらず、派遣先の都合で突発的に別の部署の仕事をしたり、同じ経理部門であっても契約から逸脱した仕事をしたりすることは契約違反になります。そのようなことが発生した場合は、人材派遣会社の担当者に相談しましょう。
契約について派遣先と直接交渉することはNG
派遣社員として働く場合の雇用主は、人材派遣会社です。契約更新や勤務時間、賃金については人材派遣会社が定めているため、派遣先との直接交渉は原則NGです。
違う企業へ派遣された
労働者派遣法では、二重派遣を禁止しています。現在の派遣先から別の企業へ行くよう指示があった場合は、即座に人材派遣会社に相談しましょう。
不当な契約の解除
人材派遣契約が有期契約の場合、期間中は途中で解約することができません。
なぜなら、人材派遣会社が派遣先と結んでいる人材派遣契約と、人材派遣会社が派遣社員と結んでいる労働契約は別なので、人材派遣契約が途中解約されても労働契約は残るからです。
派遣先企業の都合で人材派遣契約を解除するのは、企業の倒産危機や派遣社員に契約解除に該当する問題がある場合など、社会通念上やむをえない理由がある以外は原則禁止です。
人材派遣契約が解除された場合は、人材派遣会社から派遣社員に対して、新たな派遣先を確保するか、確保できない場合は契約満了期間までの就業日に関する休業手当を支払うなどの対処がされます。
人材派遣契約が中途解約された場合、その後人材派遣会社が手をつくしても新たな就業先を探せなければ、やむをえず契約終了となるケースもあります。
この場合、人材派遣会社から派遣社員に対して契約の途中解除理由を明らかにした上で、30日前までの予告か解雇予告手当が支払われるように労働基準法で定められています。
そのほか、妊娠・出産を理由にした不利益扱いも禁止されています。
人材派遣契約にあわせて知りたい法律
派遣社員として働くときに必要な2つの法律について説明します。
労働者派遣法
労働者派遣法は、雇用主と就業先が異なる派遣労働者の保護と雇用形態によらない公正な待遇確保を目的に制定された法律です。派遣社員として働く際に知っておきたいポイントを解説します。
労働者個人単位の期間制限
派遣社員は派遣先の事業所で同一の組織に3年以上就業することができません。
この場合の組織とは「部」「課」などが該当しますが、同一の組織か否かの判断は事業所の実態によります。
例えば、2020年4月1日から勤務開始した場合、就業可能期間は最大が2023年3月31日までとなります。
派遣期間制限の切れた翌日(個人抵触日)は2023年4月1日となり、個人抵触日以降は次の働き方を選ぶことになります。
(1) 同じ事業所の他部署に移る
(2) 別の派遣先企業を紹介してもらう
(3) 直接雇用を依頼して同じ職場で働く
(3)のように派遣先企業と派遣社員の同意があれば、派遣先企業の直接雇用の従業員になることが可能です。
ただし、以下のケースは期間制限の対象外となります。
- 60歳以上の場合
- 人材派遣会社に無期雇用されている場合
- 期間限定のプロジェクトで終期が決まっている場合
- 1ヶ月の勤務日数が、派遣先従業員の半分以下かつ10日以下である場合
- 産休、育休などの代替要員の場合
元の勤務先への人材派遣の禁止
元の勤務先を退職してから1年間は、同じ法人内で派遣社員として就業できません。
対象は正社員、契約社員、パート、アルバイトなど直接雇用されていたすべての従業員です。ただし同一法人内での制限なので、例えば子会社やグループ企業など別の法人では派遣社員として就業可能です。
なお、60歳以上の定年退職者は上記の禁止対象から除外されているため、離職後1年以内でも元の勤務先で派遣社員として働くことができます。
2020年4月の労働派遣法の改正
派遣先企業の正規社員と派遣社員との不合理な待遇差をなくす目的(同一労働同一賃金)で改正が施行されました。
改正により派遣社員への労働条件説明が義務付けられています。
派遣社員の賃金は、派遣先企業の賃金がベースになる「派遣先均等・均衡方式」か、厚生労働省が公表する基礎賃金額を基準にする「労使協定方式」のいずれかの方法で決定します。人材派遣会社から説明を受けなかった場合、派遣社員は説明を求めることができます。
また、食堂や休憩室などの福利厚生施設や職務の遂行に必要な教育訓練ついても、派遣先の正社員と同じように利用することができるようになりました。
人材派遣で禁止されている業務
次の業務は、人材派遣が原則禁止されています。(一部、例外あり)
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 病院や医療関連施設における医療関連業
- 弁護士・社会保険労務士などの「士業」
医療関連業や士業では一部派遣可能なケースがあります。就業を希望する場合は、事前に人材派遣会社に確認するといいでしょう。
労働契約法
労働契約法は、雇用主と労働者が労働契約を結ぶときの基本的なルールを定めた法律です。労働者が企業で働くときには、企業が提示した労働時間、業務内容、勤務地などの労働条件を確認し、納得した上で労働契約を結びます。
労働契約法についても、派遣社員として働く際に知っておきたいポイントを解説します。
「雇止め法理」の法定化
「雇止め」とは有期労働契約者に対して、企業が労働契約の更新を拒否して、契約期間満了により雇用が終了することを指します。
過去に反復で有期労働契約が更新されるなど、労働者が契約の満了時に「次回の契約も更新されるだろう」との期待への合理的な理由がある場合は、企業は当該労働者の雇止めをすることができません。
継続で更新していて働いている際に、雇止めと言われた場合は人材派遣会社の担当者に確認してみましょう。
無期労働契約への転換
2013年4月1日以降に有期労働契約を締結・更新した派遣社員は、その契約が5年を超えたときに自ら希望した場合、無期労働契約に転換することができるようになりました。
また、派遣社員が該当期間中に無期労働契約を希望せずに有期労働契約を結んで勤務した場合、次の更新時期で希望すれば無期労働契約を結ぶことができます。
このことを「無期転換申込権」といい、次の2つの条件の両方があてはまれば権利が発生します。
(1) 同一の人材派遣会社で通算して5年を超えて勤務していること
(2) 契約を1回以上更新していること
人材派遣の契約に関するQ&A
人材派遣契約についてよくある質問をまとめました。
派遣と業務委託の違いは?
人材派遣契約は人材派遣会社と労働者が労働契約を結び、人材派遣会社の社員として別の企業で働きます。
派遣された労働者は派遣先企業の業務指示によって仕事をしますが、給料の支払いや労災への加入、雇用保険や社会保険(健康保険、厚生年金保険)の加入手続き、年次有給休暇の管理などは人材派遣会社が行います。
一方、業務委託は個人事業主としての立場で企業から委託された業務を行います。
何らかの成果物の納品(請負)や、業務の遂行を滞りなくきちんと行う(委任・準委任)ことに対して報酬が発生します。
派遣先企業の担当者が指揮命令を行う人材派遣とは異なり、業務委託において委託元の企業は指揮命令を行えません。契約内容で細かく規定されることもありますが、業務実施にあたっての時間配分や手法など個人事業主に一任される範囲が広く、自分で判断し仕事を完遂することが求められます。
仕事に対する支払いは給料ではなく報酬という形で受け取ります。また個人事業主は労働者ではないので、労働基準法などの適用外になりますし、有休や雇用保険などの制度もありません(社会保険は法人組織の場合適用あり)。
また、人材サービス会社が「今回の案件は業務委託です」と案内する案件のなかには、人材サービス会社が顧客企業より委託された業務に、人材サービス会社の従業員(主に有期雇用社員)あるいは、再委託先としての個人事業主として従事するというものもあります。
いずれにせよ、処遇の違いを知った上で働き方を選択しましょう。
契約の更新のタイミングで条件面は変更可能?
人材派遣契約を満了し更新する際に、これまでの労働条件を変更したい場合(例えば週5日勤務を週4日勤務に変えたいなど)は人材派遣会社に申出ることができます。
申出後、派遣先企業が合意すれば変更が可能です。合意がない場合は契約期間満了となり、新たな派遣先を探してもらうことになります。
個人的な事情で契約が続けられなくなったときは?
派遣社員が個人的な事情で契約を解除する場合は、人材派遣会社と締結した労働契約の内容を確認しましょう。
原則、有期契約の場合は契約期間中の解除ができません。しかし、病気やケガなどで就業不可能な状態になるなど、やむをえない場合は解除可能なケースもありますので、人材派遣会社に交渉しましょう。
無期契約の場合は法律上2週間前に通告すれば解除できますが、一般的には人材派遣会社の規程(例えば1か月前など)に従います。
まとめ
派遣社員には自分のキャリアを活かした職種を選び、あわせて勤務時間や勤務場所など自分の希望する条件で働けるメリットがあります。個人の活動や子育てなど家庭の事情に合った働き方を選ぶことも可能です。
これまで解説した契約に関する内容や関連する法律のポイントを把握して、すこしでも不安・不明な点があったら人材派遣会社や担当者に問い合わせるようにしましょう。