調査データ
2022年7月25日
社員から紹介・推薦された人材を採用するリファラル採用は、自社の理念や企業文化、社風、働き方などをすでに理解している社員からの紹介であるため、マッチング率や定着率を高めることができます。若手世代の早期離職などに悩む企業にとっても、非常に魅力的な採用手法といえるでしょう。また、求人広告や人材紹介料などの費用もかからず、採用コストを抑えられるメリットもあります。
そこでマンパワーグループでは、企業の人事担当者を務める20代~50代の男女400名を対象に、「リファラル採用」の実態について調査しました。
企業で人事担当者を務める20代~50代の男女400名に、リファラル採用の導入状況を聞いたところ、人事担当者の4割弱が「導入している」(36.5%)と回答しました。
リファラル採用を「導入している」と回答した人事担当者に、リファラル採用推進のために取り組んでいることを聞いた結果、「紹介が決定すればインセンティブを贈呈」(54.8%)が最も高く、全体の5割超を占めました。次いで「全社員にリファラル採用の意義を説明」(33.6%)、さらに「紹介にかかる会食費を会社が負担」(21.9%)、「リクルーター制度の導入」(19.2%)が続きます。一方、「特に取り組みはしていない」(26.0%)という回答も全体の3割弱となっています。
リファラル採用を「導入している」と回答した人事担当者に、リファラル採用を行ったことによる成果や効果について聞いたところ、「ミスマッチが少ない」「採用コストの軽減」「社員が定着しやすい」「即戦力が得られる」などの声が多く見られました。
ミスマッチが少ないという面については、社員から業務内容や社風が伝わり事前に情報を得ていることから、ミスマッチが少なくなっているようです。また、企業サイドとしても、事前に人柄や能力を把握しやすいなどのメリットを感じているようです。
離職率や定着率にも影響があり、ミスマッチが少なくなることで早期離職が少ない、入社後の定着に一定の効果が見られる、などの声も多くありました。
また、採用そのものにおける成果については、採用人数が増えただけでなく、有能な人材の確保にも成功しているケースも多いようです。
・紹介者が会社のことをよく言ってくれているので、応募してもらいやすい(男性・56歳/東京都)
・理念にマッチした即戦力がある人材が入社して、定着率を上げるためのオンボーディングが楽になった(女性・35歳/東京都)
・離職率が低下した(男性・58歳/奈良県)
・採用コストを抑えることができる(男性・47/埼玉県)
・採用した人材のうち、有能な人材のほぼ100%はリファラル採用によるもの(男性・41歳/広島県)
上記以外にも、「技術系などで期待通り、またはそれ以上の人材が見つかった」(男性・52歳/大阪府) 、「やる気のある若くて優秀な営業を採用できた」(女性・22歳/千葉県)、「なかなか埋まらないポジションが埋まった」(女性・43歳/神奈川県)など採用枠の充足に関するコメントが多く見られたほか 、「社内において『採用者に成功体験を共有できる』という点は実に新しい試み。特に周りの若い社員が張り切る」(男性・53歳/東京都)といった、既存社員に対する好影響があったとする声も見られました。
リファラル採用を「導入している」と回答した人事担当者に、リファラル採用を行ったことによる問題点・課題について聞いたところ、「断りにくい」「求める人材要件に合わない」という声が多く見られました。具体的には、インセンティブ目的のため求める人材要件に合わない、役職者などの縁故だと断りづらい、採用基準が甘くなる、というケースがあるようです。
採用活動そのものについては、採用ポジションをオープンにしづらい、希望職種に偏りが出る、多様性が失われる心配があるといった問題を感じているようです。また、リファラル採用の認知度が低いといった、そもそも制度利用がされにくいことを問題としてあげる声もありました。
採用後については、なれ合いやそれにより人事評価が甘くなる可能性を心配する声のほか、紹介してくれた人に迷惑がかかると思い悩みを抱えたりしてしまう人がいる、採用後に何かあった場合に紹介者が責任を感じてしまうのではないか、など心配する声がありました。
・インセンティブ目的での乱雑な紹介がある(男性・52歳/岐阜県)
・能力にバラツキが多い。紹介者の主観が入る(女性・41歳/大阪府)
・会社の風土的に役職者などの縁故の場合、断ることができず、マッチしていない人材の採用もしばしばある(女性・34歳/愛知県)
・採用基準が甘くなる傾向があったので、複数人で面接を実施している(女性・35歳/東京都)
・採用ポジションをオープンにしづらい(女性・41歳/大阪府)
・多様性が失われる心配がある(女性・43歳/東京都)
・上層部に馴染みがない(女性・35歳/愛知県)
・リファラル採用の認知度が低い(女性・46歳/東京都)
・社内の幹部社員により紹介された人材がその幹部社員の部下として配属された場合に、適切な人事評価が行われない可能性がある(男性・59歳/京都府)
・リファラル採用した人材が退職したいとなった時に、紹介者も責任を感じて辞めてしまうのではないかと心配している(男性・51歳/神奈川県)
今回の調査では、リファラル採用のメリットとして、ミスマッチの低減や採用コストの軽減、定着率の向上、欲しい人材を獲得できるなど、多様な効果・成果を実感している声が多くありました。その一方では、社内の紹介のために不採用にしづらい点や採用基準が甘くなる点、入社後のなれ合いなどを問題点にあげる声もありました。
リファラル採用を導入する際には、採用判断のルールづくりはもちろん、社員に対して入社後の指導・評価において公平性を持つ意識づけをしっかりと行うことが重要といえそうです。
また、リファラル採用で紹介者となった社員に支払うインセンティブは、「企業に人材を紹介して得た報酬」とされます。職業安定法第30条にて「有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」と規定されているため、自社の社員であったとしても許可を得ずに有料の紹介を行うことは違法であり、社員に対価を支払う企業にも違法性を問われる可能性があります。しかし、同30条では「ただし、賃金・給料またはこれらに準じるものを支払う場合、または報酬の額について事前に厚生労働大臣の認可を得ている場合を除く」という規定もされているため、社員に対する報酬は「賃金や給料の形で支払うこと」が一般的となっています。
リファラル採用に関するインセンティブを賃金や給料の形で支払う場合は、支払い時期や支給額などをはじめとする支払い条件を就業規則に明記するなどの対応も必要となるため、こうした面も含め、導入の際には制度・環境の整備をしっかりと進めることがポイントになるでしょう。